「君に届け」

ネタバレにつき格納します。
ベートーヴェン「第九」でこの映画は幕を開ける。すべての「まっすぐ正直に」生きている人を祝福するように。
爽やかなまでに、出会いから始まる恋。爽子と翔太、劇中何度も繰り返されるツーショットにもかなり気を払われてる。力量不足からその込められたメッセージの全てを受け止めきれないんだが、2人が惹かれ合っていく理由として強い説得力を持っている。
かなり少女マンガ的な描写もある。ヒロイン、爽子が本当に悲惨な状況やどうしようもない困難に陥ったとき、必ずといっていいほど、みんなの人気者「白馬の王子様」翔太が助勢するのだ。今現在、孤立し、いじめや迫害を受けている学生や社会人にとって、ファンタジーでしかないだろう。完全孤立状態にある人間は誤解の連鎖を受け、さらに孤立するいじめの構造がある。爽子がクラスに認められるために、言動の裏まで読んで弁護してくれる友人、女を見抜く目すら持つ瑕疵ひとつない王子様が必要だった。これらをひとつとして持たない人々には「まっすぐ正直に」生きろとだけ突き放している。ただ、作り手のもうひとつ強力なメッセージは、ARATA演じるあまつさえ生徒に興味が無い無責任な担任の教師から発せられる。「結局、自分がなんとかするしかない」爽子がクラスメイトと対峙する、息がつまるようなシーン。爽子に自立し、自らの言葉を発信する道を選び取らせた、優しさが感じられた。
メインとなる役の多部未華子三浦春馬蓮佛美沙子夏菜、そしてバイプレイヤーの桐谷美玲青山ハルといった俳優たちは、相当台本を読み込んでいるはずで、シーンごとの表情、視線が確信を持って演じている。演技指導も的確だったんだろう。
映画の最初と最後のショットが対応しているのも綺麗。「第九」のコーダを飾るflumpoolによる表題曲を持って、見る人の心に爽やかな余韻を残して幕が閉じる。


脚本、構成、演出、背景と人物描写、キャストの演技という点において、疑問や矛盾、減点対象を探す事さえ難しい、傑作の域に達する良作。
90/100点。